決算書から減価償却の意味を読む
税務
減価償却はマジック?
素人が見破ることは不可能
-決算書の読み方-
法人税
- 2015.08.25 -
決算書に隠された減価償却の見方
減価償却とは、支出を一定期間(=償却期間)に渡り費用配分する方法です。
費用は収益を得るための投資としての側面があります。
そこで、固定資産のように将来にわたり収益獲得効果が発現するものを、配分するわけです。
以下では、決算書を読み解く上で、減価償却費に隠された秘密をご紹介します。
(
弊社オリジナル減価償却自動計算ツールはこちら)
なぜ経済実態と異なる処理が可能なのか
減価償却費は、経済効果と会計数値に乖離が生まれやすい費目です。
結論から言えば、「だれも真実が分からないから」です。
以下では、①耐用年数、②資産計上、の観点から決算書の読み方について考察します。
①耐用年数の問題
減価償却を行うには、償却期間(=耐用年数)を決める必要があります。
例えば、耐用年数が10年だとすると、10年に渡り費用を按分します。
この耐用年数は、一般に国税庁指定のものを使用します。
例えば、「パルプ、紙又は紙加工品製造業用設備」なら12年です。
しかし、この12年という長さに妥当性はあるのでしょうか。
結論から述べれば、Noです。
パルプ、紙又は紙加工品製造業用設備といえど、種類は何百何千と存在し、機能も異なります。
それを十把一絡げに「12年」とまとめることに問題があるからです。
勿論、全タイプに応じて合理的耐用年数を形式的に設定することは不可能です。
それ故に、その経済合理性には限界があります。
(
弊社オリジナル中古資産の耐用年数自動計算ツールはこちら)
②資産計上の問題
製造業では、頻繁に資本的支出の計上という問題が発生します。
資本的支出とは、その支出を資産計上(=減価償却)するか否かという問題です。
(
弊社オリジナル資本的支出自動計判定ールはこちら)
代表的なものは、機械装置に対する修理をしたケースです。
簡略化すれば、以下の通りです。
- ①その修理が機械装置の価値を高める→資産計上
- ②その修理が機械装置の価値を高めない→費用計上
いかに早く経費として落とすか、を主眼にする場合、②の手法が模索されます。
しかし、対銀行や投資家面では①を採用した方が、決算書の見栄えは良くなります。
なぜなら、①は資産が多く計上され、②は費用が多く(=利益が少なく)計上されるからです。
本来、①②のいずれを選択するか恣意性が介入しないなら、問題はありません。
特に、税務署は①について文句を言いません。
(②は厳しくチェックされます)
しかし、①の判断については、業界精通者で無い限り、第三者による判定は困難です。
具体例(架空例です)を挙げると、
「ダイカッタZX16型のサクショントラスファを改良し生産性が向上しました」
と言えば、経理担当者あるいは投資家の貴方はその通りだと思うでしょうか。
なお、製造業なら、業種により何百~何千という資産が存在する中小企業も稀ではありません。
資産計上すると、何が問題か
資産計上した場合、上述の通り短期的利益も増え、決算書の見栄えが良くなります。
所謂、自己資本比率やPERといった財務指標も好転します。
また、キャッシュが減少するにも係らず、資産全体の金額は変わりません。
決算書だけ見れば、優良企業として銀行等からの融資も受けやすくなるでしょう。
しかし、資産計上しても、それだけの収益を生まなければ、本来の価値はありません。
労働装備率の高い製造業では、資産計上≒参入障壁の高さ≒競争力、という趣もあります。
しかし、参入障壁が高い程、不況・倒産時に同業者から買い叩かれる可能性も高くなります。
決算書を読む上で、固定資産の価値は特に注意し分析すべきだと思われます。
上記の他、減価償却費の一時停止や税法上の特例適用=簿価引下げ部分も存在します。
その固定資産は、決算書通りの価値が本当に存在するでしょうか。
投資家には、実態に目を向け、本当の企業価値を見極める能力が必要となります。