法人成りの税務チェックリスト
税務
法人化での所得税等の確定申告
節税対策は万全ですか?
-一回限りの処理-
所得税
- 2017.3.31 -
所得税上の注意点
廃業届を出すタイミングと提出先
法人化の手順としては、法人設立→個人事業の廃業、という流れになります。
法人設立日を境に個人事業を廃業できればベストですが、現実はほぼ不可能です。
通常、重複期間が存在しますが、いつを個人の廃業日にすれば良いでしょうか?
税理士に対するよくある質問です。
税務署に提出する個人廃業届では、任意に廃業日を記載することができます。
実際は、得意先/仕入先の〆日に合わせて廃業日を設定する場合が多いです。
ところで、個人事業を廃業すると法人役員として給与所得者に移行するわけですが、税務署に届出た廃業日以降の領収証等は経費に出来ないのではないか?との疑問も沸きます。
この点は税法上配慮されており、廃業日以降でも経費の算入が認められています。
(所得税法第63条)
例えば、6/1付けで廃業届を提出し、8/1に支払が発生しても、本年度の経費として認められます。
ただし、極端に廃業日と領収証日付に乖離がある場合は、税務調査で疑われる原因にもなります。
よって、実務上はなるべく年末付近に廃業日を設定することが多いでしょう。
税務署に提出すべき届出としては、以下のようなものがあります。
- ①個人事業の廃業届出書(所得税)
- ②所得税の青色申告の取りやめ届出書
- ③事業廃止届(消費税)
- ④給与支払事務所等の廃止届出書
「青色申告の取りやめ届出書は提出しない方が何かと有利なのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、一旦廃業した個人事業が復活することは当面ないでしょうし、万が一そうなった場合は再度取得した方がスッキリすると思います。
なお、廃業届は事業税についても提出する必要があります。
倉敷の場合は、備中県民局が管轄になりますので、お忘れなく。
当然、税務署に届出る廃業日と一致させておきます。
また、eL-TAXは現時点で対応していませんので、書面のみでの提出となります。
棚卸資産の処理
法人化に伴い、棚卸資産は通常全て個人→法人に譲渡されます。
法律上は個人と法人は別人格ですが、経済上は一致していることが多いでしょう。
ややもすれば、「無償で法人へ譲渡」も考えられそうです。
しかし、所得税法上、これには問題が残ります。
なぜなら、著しく低い価額による譲渡は「実質的に贈与した」と認められてしまうからです。
(所得税法第40条第1項第2号)
実務上は、通常販売価格の70%相当にて、個人→法人へ売却します。
なお、以下のような事由に該当する場合は、70%未満の販売でも問題ありません。
(所得税法基本通達40-2)
- ①型崩れ・流行遅れ品
- ②実質的には広告宣伝の一環である場合
- ③金融上の換金処分である場合
ところで、商品の一部には、不良在庫もあることでしょう。
所得税は法人税と異なり、所得が多くなるほど税率も高くなります。
在庫金額が多大な業種の場合、一気に法人へ売却すると思わぬ税率アップとなるため留意します。
その場合は、無理に法人へ売却せず税理士と相談して廃棄を検討します。
消費税の注意点
資産の譲渡時期
法人化の動機として、消費税の免税事業者に戻ることが挙げられます。
個人→法人へ移行することで、通常2年間消費税の免税事業者となります。
そこで、売上に関わる免税期間の恩恵を最大限に受けたいと思う個人事業者(免税事業者)の中には、「年末いっぱいで廃業し、翌1/1より法人成りしたい」という要望もあります。
1/1は国民の休日のため、法人設立登記は不可能です。
そこで、例えばお店の初売り前日である1/5に法人登記を考えたとします。
この場合は、個人所有の備品等を1/5以降に譲渡することになるため、消費税が発生してしまいます。
売上のみに焦点が行きがちですが、固定資産の譲渡にも消費税がかかることを忘れないようにしましょう。
自家消費による税負担の発生
法人化の際は、個人事業の資産を0にすることが通例です。
(70%譲渡でも、廃棄でも)
しかし、やむを得ず資産が残ってしまう場合もあるでしょう。
その場合は、現税務行政によると「廃業時に自家消費された」とみなされることになります。
こうなると、当該資産に対し消費税が発生することになります。
特段の理由なき限り、保有資産は0の状態で法人化する方が無難です。
税込み経理方式の場合における、未払消費税の計上
個人事業時代に税込み経理方式を採用している場合、消費税は「租税公課」と処理されることが通例です。
当該租税公課の計上時期は以下の通りです。
- 原則:申告書の提出日
- 特例:未払金に計上した場合は、その計上日
原則処理を採用している場合は、廃業翌年度に提出すべき申告書が無いため、計上漏れが発生することとなります。
つまり、所得税を多く払うことになります。
従来行なってきた処理方法をチェックしておきましょう。
事業税の注意点
未払事業税の計上
個人事業税は、確定申告後8月頃に都道府県(倉敷の場合、備中県民局)から納税通知が届きます。
そして、当該納付書に記載されている金額を経費処理していきます。
しかし、廃業翌年度は確定申告を提出することが無くなるため、当該事業税に関する経費処理が抜けてしまうことになります。
そこで、廃業時の確定申告において、通達にある計算式にて事業税の未払計上を行ないます。
(所得税基本通達37-7)
なお、事業税の課税標準を計算する際は、廃業までの月数按分が必要となります。