住宅分譲地の私道を国等へ寄付

税務

私道の寄付

分譲地と寄附金規制

私道を市道として寄付
- 原価処理の適否 -

法人税

- 2022.7.7 -

住宅分譲地の開発における私道処理

不動産会社(法人)が宅地開発を行い新築住宅を販売するケースがあります。
田畑を宅地に転用し家を立てる許可を得るためには、公道と私道を繋げる等の規制があります。
纏まった住宅分譲地には、不動産会社が設置した私道があり分譲地購入者に利用されます。
本私道は、①各購入者の共有持分となる、②市町村へ寄付される、の2パターンがあります。
①を選択した場合は後日トラブルになるケースもあり、分譲地では②が選択される場合も多くなっています。
本稿では、②の場合の税務処理について解説します。

寄附金税制の確認

法人税では国等に対する寄附金は、全額損金の額に算入されます(法人税法第37条)。
ただし、国または地方公共団体による採納手続きが必要で、受領書・領収書があるだけでは原則損金となりません。

倉敷市の場合、道路管理課で分譲地私道の寄付採納を受け付けています。
寄付された私道の登記が完了次第、「登記の完了について(通知)」といった書面が交付され、採納通知の代わりとなっています。

以下のような場合は、寄付と認められません。

  • A)採納手続きを経ても、その寄附金が特定の団体に交付されることが明らかである等最終的に国等に帰属しないと認められるもの(基通9-4-4)
  • B)法人が専らその有する土地の利用のために設置されている私道を地方公共団体に寄附した場合(基通7-3-11の5)
  • C)地方公共団体が造成した工業団地の土地等を取得した場合において、別途寄附が条件となっていた場合(基通7-3-3)

形式的な寄付でなく実態で判断されます。

不動産会社の経理処理

不動産会社では、宅地開発に掛かる費用は一旦「販売用不動産」勘定として棚卸計上されます。
販売が完了した時期に「不動産仕入」として売上原価計上されます。

このとき、当該市町村へ寄付した私道は「不動産仕入」となるか「寄附金(全額損金)」となるかが問題となります。
なお、自社で使用する土地等へ施した費用は「土地」または「繰延資産」として処理します。

個人の税務

個人の場合、分譲地の道路用地の取得費等について国税庁の質疑回答が確認できます。
要約すると、市道として市へ寄附する私道は取得価額(工事原価)に算入します。

法人の判例

法人では私道の寄付が工事原価になるか、寄附金(全額損金)となるか、国税不服審判所の裁決が存在します。
(裁決事例集 No.30 - 162頁 昭和60年10月31日裁決)
要約すると、

  • A)宅地開発行為の許可申請に当たり、公共道路用地として無償提供は必要性がある
  • B)そこに設置される道路の効用は、開発土地に吸収され、その宅地としての効用を形成する
  • C)道路の無償提供は名目的なものにすぎず、それにより請求人は損失を受けていない

よって、土地の無償提供は、地方公共団体に対する寄付金には該当せず、本件土地の取得価額は、開発土地の取得価額を構成すると結論付けられています。

私道の寄附にかかる結論

以上より、住宅分譲地の開発において発生した私道の市道への寄附は法人税法上の寄附には該当せず、取得価額(不動産仕入)の処理を行います。

なお、上記に該当せず国等へ寄附金で全額損金とするには「確定申告書」に寄附金の明細書(別表)を添付し、かつ領収書等の保管が必要となります。
申告を失念した場合でも「修正申告書又は厚生の請求書」に寄附金の明細書(別表)を添付・提出したときは、嘆願書などの必要が無く認められます(法人税法第37条第9項)。

【注】本Tipsでは、投稿日時点の情報を掲載しています。記事に関する税務・個別具体的判断につきましては、最寄の税務署または顧問税理士・税理士法人等へ相談確認して下さい。万一当記事に基づいて発生したいかなる損害についても、弊社は一切の責任を負いかねます。